安居智博 作品展

「イチカーバチカー One or Eight」

会 期 :2023年10月4日(水)〜10月28日(土) ※水・木・金・土のみ開催
開場時間 :13:00〜19:00
会 場 :@btf 東京都中央区勝どき2-8-19 近富ビル倉庫3F 3B 地図
入場料 :無料

 

プロフィール

安居智博 Tomohiro Yasui
造形作家・クリエイター 
幼少の頃より紙と針金による紙工作「カミロボ」を作り続け、
その数は600体以上。
現在は作品発表と共に、フィギュア造形・商品企画など多方面で活動中。

略歴
2006年 イギリスICAにてカミロボ展開催
2006年 Newsweek誌「 世界が尊敬する日本人100」選出
2008年 高校教科書「 高校美術2」掲載
2008年 MoMA(ニューヨーク近代美術館) MoMA store にてカミロボ・ペーパーフィギュア販売
2010年 メキシコ国立自治大学付属チョッポ美術館にて展覧会
2022年 平凡社より著書「100均グッズ改造ヒーロー大集合」発売

 

安居智博氏 トークライブ
10月14日(土)16:00〜 

幼少期から続けるカミロボ制作や、SNSで話題になった作品、最新の制作裏側までお話いただきます。
日時:10月14日(土)16:00〜
会 場 : @btf 会場内
参加費:無料 先着40名
※10月14日(土)はトークライブ申し込み参加者様のみの開場となります。
申し込みされていない方は入場できません。15:30開場。 17:30終了予定。

たくさんのご応募、ご来場いただきありがとうございました。


「美術館ってのは作品販売はしない場所で、ギャラリーは作品を販売する場所なんだよ」と人に教えてもらうまで、そういう事をあまり深く考えずに創作活動をしてきたように思います。

その時にはすでにロンドンやメキシコの美術館でも作品展示の経験を重ねていたのに、です。
考えてみればそうなんですよね。あぁなるほど言われてみたらそういう仕組みだわ、そこに境界線があるわ、と。

振り返ってみると、こんな調子で、ビックリするくらい無知なまま特殊な経緯を辿って創作と発表を続けてきたのだな、と我ながら思います。

三十代の頃から発表しはじめた「カミロボ」は、もともとは小学生の頃から自分の楽しみのためだけに作ってきた極私的な工作で、発表するつもりがなかった、というのが「特殊な経緯を辿ってきた」大きなポイントだったと認識しています。

しかも、数十年にわたって作り続けて1体1体に人格を感じていたカミロボを「売る」という発想も当然のように無かったんですよね。

なのでカミロボ発表後に、企画展示やグループ展という形でギャラリーから展示のお声を掛けていただいても「売るもの(=展示するもの)がない」という状態になって困ってしまう事が多々あったのです。

なんだそれ?ですよね…。なんだそれ、だったんです。

だからそこで初めて考えたワケです。
作品を発表するとは?作品を販売するとは?表現をするとは?
作品を通してコミュニケーションを取るとはどういう事なのか、と。

恥ずかしながら、ここまで来て、遅ればせながらようやく僕の、外側に向けた表現活動が始まったような印象でした。

まずそこで最初に意識せざるを得なかったのは「自分の内面世界」と「外側に向かっての表現」の境界線でした。

もともと小学生の頃は、自分のためだけにカミロボを作っていた一方で友達を主人公にしたマンガを描いてクラスのみんなを笑わせていたような面もあったのだから、当時のその「意識的に使い分けていた感覚」を思い出して、その境界線の両側の良いところを融合させて作品制作をすればいいのではないか、と思ったのです。

そこで作ったのが「日用品ヒーロー」です。
誰もが知っている日用品を材料として使うことで、カミロボの極私的なこだわりを分かりやすく解説することができた日用品ヒーローは、僕の創作を「翻訳」してくれるような存在となりました。

ここで僕はそれまで言語化できずにフワフワしていたものを少しだけ掴めたような感覚がありました。
なるほど、こういう風に考えるのが自分らしいのだろうな、と。
それから僕は、普段自分が潜在的に大事に思ってきた(であろう)様々な「境界線」を強く意識するようになりました。
次に僕が意識した境界線は「日常と非日常の境界線」でした。民俗学的には「ハレとケ」と言われる感覚です。プロレスや変身ヒーロー、世界の民芸仮面劇、伝統的なお祭りなど、僕が好きなものにはだいたいこの構造が内包されています。
そんな日常と非日常の境界線を可視化し体感を共有することはできないだろうか、というテーマで作ったのが一連のトートバッグのシリーズでした。
同じミシンの技術を使う縫製作品でも、プロレスマスクなどの非日常空間で使用するきらびやかな舞台衣装を作った時よりも、日常で持つことをイメージしてもらえるトートバッグの方がその境界線がリアルに伝わりやすかった、という経験が印象深く、ここでも僕は日用品ヒーロー的なスタンスの大事さを知ったのでした。
そしてその次の段階。僕が次に意識した境界線は「平面と立体の境界線」でした。
カミロボは最低限の立体の上に絵を描くことで成立している、ということに改めて自分自身気がつき、これこそが自分が思う「カッコよさ」の中心にあるものだと確信したのです。
例えば「着物」は平面の織物に絵が描いてある(織ってある)ことでデザインが成立していますが、つまりはあの感じ、あの感覚です。
そんな風に、立体造形と平面デザイン(絵)を融合させる、という考え方で作ったのが、昨年から今年にかけて発表したぬいぐるみ作品や陶芸作品などでした。
そして現在。
今度はその、平面と立体の境界線を「立体側」から攻めるではなく「平面側」から追求することはできないだろうか、と考え、絵を描くことを思い立った…というのが僕の最新の「近況」です。絵で表現することで、平面と立体の境界線の、もっと曖昧な領域に踏み込めないだろうか、と考えたワケなのです。
僕がイメージする境界線は、キンキンに尖ったエッジの上のような感じではなく、両側が溶け合ってわずかに混じり合った「曖昧な緩衝地帯」のようなイメージを持っています。
そういう「ハッキリとしない」、一言で断定できない曖昧な地帯、意識しなかったら切り捨ててしまうような「余白」みたいなものを表現できないだろうか…というテーマがここ数年の僕の創作活動の中心にあります。
前回よりももう一段階そこに…その領域に近づけないだろうか。踏み込めないだろうか。
上手くいかないかもしれないけれど、失敗したとしてもその程度のダメージなんて別に大したことないんだから、一か八か、思うようにやってみたらいいじゃないか、というのが今回の個展の自分なりのテーマなのですが…
いやぁしかし「イチ」と「バチ」の境界線の上は曖昧な優しさなど無い、殺伐とした世界だなぁ。チクショー…ワクワクしてますよ。

 

 

 
 
 
 

 

10月14日 安居智博 トークライブ 

前編 ルーツの話 中編 造形師時代 後編 カミロボ〜現在

 

【今後の展示予定】 
次回の展示はアーティスト 鈴木安一郎氏

 

鈴木安一郎展「 みのへるねる kachidoki」
会期:2023年11月15日(水)〜12月9日(土)予定