2009年10月31日に行われたbtfトークイベントは、ユニークな肩書きで仕事をしている2組のクリエイターをお招きしました。カスタムペインターとして活躍する倉科昌高氏、そして、造形ユニットとして知られるGELCHOP(ゲルチョップ)のモリカワリョウタ氏とオザワテツヤ氏です。さまざまなものを工作しつづけてきた2組が、2009年10月29日(木)〜11月29日(日) に@btfで催された共催となるエキシビション、『D.I.Y.』展にちなみ、ユニークなことを聞かせてくれました。2組の創造性を覆うD.I.Y精神とは、一体、どのようなものなのでしょうか? エディターとして、またライターとして活躍する渡辺裕さんが2組からユニークな話を聞き出してくれました。
渡辺裕:さっそくですが、btfで開催された『D.I.Y.』展についてお聞かせください。
倉科:最初にD.I.Y.というキーワードがあがった時点で、ホームセンター倉科みたいで、すごくいいなぁということは思いました。僕はふだん、ホームセンターを倉庫代わりに利用している感覚があるんですね。だから、フラフラしながら何買うかを迷っている日曜日のお父さんとは違うんだ!というプライドがあります(笑)。だから、僕は、パッと行ってパッと買いたんですね。
渡辺:なかなか人にはわかりづらいプライドではありますけど、何となくわかります(笑)。GELCHOPの方はどうですか?
GELCHOP(モリカワ):僕らも年中、ホームセンターは利用してます。販売している商品のパーツだけを使用することもあるし、これとこれを組み合わせたら、あんな事になるかもなどと想像しながら物色したりもしていますね。だから、この企画はもともと、ずっとやりたかったものだったんです。
渡辺:GELCHOPの作品は笑えますよね? 一瞬使えるかな?って思うんですけど、立ち止まって考えてみると、いや、ちょっと待てよ、ということになりますね(笑)。
GELCHOP(モリカワ):一応、JIS規格がついたものを素材に使っていたりするので、使えることは使えると思うんですけどね(笑)。
渡辺:倉科さんの方は、使える使えないという部分に関しては、どうでしょう?
倉科:自分の方も、機能性というものはあくまでも大事に考えながらやろうとしているところがあるんです。今回の展示に出した作品は、生活のあるシーンを思い描きながらつくっていたりしています。それから、ある種の大喜利みたいな感覚はありますね。”ハンマー”というお題に対して、どう答えるのか?みたいな感じです。それから、使える使えないではないかもしれないけど、売れる売れないという面でも、今回は値段をつけて作品として売るので、そこは考えました。展示する作品は、基本的にホームセンターで買える材料をベースにつくるということが大前提なんですね。何かしらの材料、素材を安く買ってきて、値段をつけて売るという感じです。
渡辺:共催の展示会ということで、お互い連絡をしあうということはあったのですか?
GELCHOP(モリカワ):それは意外にもまったくないんです。
倉科:僕の方が先にできあがって、作品の搬入を@btfにしていたんですけど、後から搬入してきた彼らの作品は、はじめてその場で見るという感じでした。彼らの作品を目にしたときは、ただホームセンターで売られている既製品を組み合わせているだけなのに、彼らなりのテイストを崩さずに、見事なまでに彼ららしい作品を仕上げてきたなぁというのが率直に思ったことでしたね。
渡辺:倉科さんご自身の作品については、これはこういう見方をしてもらいたい、というのはあったりしますか?
倉科:だいたいは、見た目のままのものが多いかもしれないですね。ざっと、ランダムに言っていきますと、次のような感じになりますね。
・ハンマーは毛皮の彪柄がかわいい。
・草刈りをするときのフェースガードに透明な着色をする。
・白い工具箱は、元々はブルーの地味な缶の工具箱だったんですけど、これをつや消しの白を基調に着色したら、女の子が使ってくれたりするんじゃないかと思いました。
・耕耘機はホンダさんから本体を提供していただいたんですけど、これは気に入っているということもあって非売品にしました。
GELCHOP(モリカワ):ハンマーのシリーズのように、いろいろパターン化して考えていきましたね。人間の煩悩の数、108ツつくりたいと思ったりしていましたから(笑)。
・ジャバラ部分を鋳鉄にして実際に使うことができるピコピコハンマー。
・ブタの貯金箱のハンマーは、最後の一撃のときしか叩けない。
・のこぎり型ハンマー・ラチェットのハンガーフック。
・石が転がるペイントローラーで、ロックローラーです。
・5キロ、10キロのものをぶらさげられるスッポン。
・日曜日に行く家庭菜園の道具セットが入った、ゴルフのクラブケース(Sunday Farmers)。
渡辺:倉科さんは、元々はイラストレーターをやっていて、平面から立体のものをつくるということを最近はやっていると思うんですけど、その点に関して、何か思うところはありますか?
倉科:自分の場合は、もともとカスタムペインターとしてはヘルメットから入っています。だから、考え方としては、360度どこから見ても成立するような、曼荼羅みたいな図の考え方でつくっているんですね。でも、平面ということで、驚いたのは、たまにフィギュア屋なんかに行って、ディスプレイされている美少女フィギュアを見たりすると、それを見たときには、ビックリしましたね。バストは明るい色、谷間は濃い色、側面も濃い色、股付近は明るい色みたいな感じで色を塗っていて、要するに彼らは、ある一点からだけ見るということを前提に模型をつくっているんですよ。そこは、僕の色の塗り方とはだいぶ
違うなぁということを思いましたね。
渡辺:GELCHOPの方は、普段は、どんなスタンスで仕事をしているんですか?
GELCHOP(モリカワ):僕らは、常にDIYなモノづくりです。依頼頂いた仕事でも、自分たちのくだらないアイデアでも、どうやってイメージする形にするのか毎度格闘してますね。バカバカしいアイデアにこそ真剣勝負。ネジ1本にまでこだわって自分達なりのクオリティをおとしこむ。そこだけはこだわってやっています。
渡辺:今回の展示は、アートと実用品の中間みたいなものを楽しく作品にしているという印象を受けました。どうもありがとうございました!
2組のユニークな発想は、下記のオフィシャルサイトにある過去の作品などでもご覧いただけます。是非、立ち寄ってみてください。
■倉科昌高 1962年、長野県生まれ。フリーのイラストレーターからスタートし、93年よりカスタムペインターを名乗り、MTBレーサーのヘルメットペイントを開始。その後、分野を、日用雑貨品、ファッション、建築にまで広げて、ありとあらゆる立体物をベースに作品制作を行うようになる。ボウリングピンをカスタム・ペイントしたピン・アート作品集『PIN ZOO』(ダイエックス刊)、エアブラシで絶滅動物を描いた絵本『DODO』(PIE BOOKS刊)などの、本も出版している。 モリカワ リョウタ、オザワ テツヤ、2人の工作好き によって2000年に結成されたユニット。手作業で、イメージと現実の世界をつなぐこと「子供なアイデアを大人なクオリティーで形にする」というテーマにそって、立体というカテゴリーのもと多岐にわたって活動する。アート、デザイン、クラフトの分野を横断する多岐にわたる活動を行っている。 ■渡辺祐(エディター/ライター/パーソナリティ)
自称:街の陽気な編集者。1959年神奈川県生まれ。『宝島』編集部を経て、1986年からフリーランスとして活動。 1989年、編集プロダクション、ドゥ・ザ・モンキー創業。「VOW」の初期シリーズの他、単行本、各種雑誌、公演パンフレット(ワハハ本舗から福山雅治まで)、フリーペーパー、CDジャケットなどなどの場で編集執筆構成仕切り調停多数。J-WAVEでは土曜午前のプログラム「Radio DONUTS」のパーソナリティーを務め、「タモリ倶楽部」にも時々出演中。
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