2009年9月26日に開催されたbtfトークにお招きしたのは、「R25」や「大人たばこ養成講座」で知られるアートディレクターの寄藤文平さんと「R25」「L25」の創刊編集長である藤井大輔さんです。おふたりは1973年生まれの同世代。仕事を通じて、信頼を深めてきただけあって、トークの内容もオープンな、興味深いものとなりました。寄藤さんは、初のイラストレーション展「KIT25」も開催(2009年9月24日から10月25日まで)。彼らの仕事に対するお話は、世の中を騒がせるクリエイションのなんたるかを教えてくれる意義深いものです。それでは、彼らのお話に、耳をかたむけてみましょう。
ふたりの出会い
藤井:僕はリクルートの社員で、編集者として働いていました。僕がやっていたのは『住宅情報』という雑誌で、あるときその雑誌で覆面座談会をやろうという企画の話がもち上がった。それで、寄藤さんに実際にかぶるための覆面のようなお面のイラストを描いてもらった。でも、最初は、断られてしまったんです。
寄藤:それにはちょっと理由があるんです。基本的には僕は、イラストだけの仕事は受けないことにしていたんです。でも、断ったら、また連絡がきて、他の編集者の人と一緒に僕のところを訪ねてきたんですね。
藤井:とにかく僕は、彼と一度、仕事がしてみたかったんです。僕も彼も73年生まれで、僕は富山県出身で、彼は長野出身、そこに共通する何かを感じたんですね。
『R25』は失敗を前提に?
寄藤:ところで藤井さんは、どんな経緯で『R25』を立ち上げることになったんですか?
藤井:元々、あれは、会社がやってた新規事業開発コンテストで一等を取った企画だったんです。それで、事業化するために、若い子たちが立ち上げた部署に僕 が担当して取り仕切ることになったんですね。メンバーは20代3人に、僕がひとり。ラックなどの設置を交渉する流通担当者、代理営業の担当者、そして編集 者が、僕ひとりで、たった3人でスタートしたものでした。会社的にはやる気ないでしょ?っていう感じでしたね(笑)。もう最初っから、でかいことを言って いましたよ。「新聞を凌駕するフリーペーパーをつくる」とか「ペーパーポータルをつくる」とか、スケールの大きなことばかり言っていましたよ(笑)。
寄藤:なるほどー。さいしょは、何もかもが揃った状態ではじまったわけではなくて、当時は、うまくいくかどうかわからない感じだったんですね?
藤井:わからないというよりは、基本的には「失敗するだろう」と、いうことが前提になっていたんですよ。でも、やっぱり僕は、熱い彼らとともに一緒になっ て、結構、一生懸命に考えちゃうんですね。やっぱりターゲットは「新聞を読まない人、活字を読まない人、新聞を読んだふりをしている人」だろうとか、ヒアリングを行ってみてキーワードとして考えうるのは「役に立つ、おもしろい」ということだとか、ね。それで、頭に浮かんだのが、「日めくりカレンダーマガジン」というものだった。これは、『WeekPoint(ウィークポイント)』というタイトルをつけて、「弱点」と「週の要点」みたいなふたつの意味をかけているから、「これはいけるな!」と思い違いをしてみたり。ちなみに、R25というタイトルは、基本的には、18禁ならぬ、25禁という意味なんですよ。 新聞に憧れつつも新聞を苦手をする人たちって、やっぱり25歳がターゲットとしては、どんぴしゃりなんじゃないかなと思いましてね。でもね、あとで気づい たことだったんですけど、800字のレビューが25個、偶然あったんですよね。それで、理屈としても「これはいいな!」ということになるわけですね (笑)。
寄藤:そうだったんですか。でも、やっぱり、そういう理屈っぽいこと、ロジックみたいなことを、藤井さんはいつも考えているんですね。実は、僕もそういうタイプなんですよ。そんな意味からは、『R25』は考えぬかれていたものが形になって、多くの人に受け入れられて成功した珍しい例のように思えます。そういうコンセプトだとか設計だとかがしっ かりしているものというのは、いいなぁ、好きだなぁ、って僕は思うんですよ。
藤井:そうですね、最初は頭で考えていくタイプですね。まず「新聞」というものが頭にあって、新聞を読まない人、活字を読まない人たちが、「新聞は上から目線だし、用語が難しいし、イヤだ」と思っていること、新聞や活字の入り口になるようなことをどうすればやれるか、そういう設計を理詰めで考えていった。 寄藤さんのイラストに関しても理屈がありますよ。「これは絶対に、雑誌の設計上必要なものだ!男たちの情熱紙のシンボルなんだ!」って。ところで、寄藤さ んの今回はじめてとなるイラストレーション展「KIT25」というものは、どういうものなのでしょうか?
『KIT25』はなぜ生まれたか?
寄藤:はい。これは先ほども話した「イラストだけでは仕事は受けない」ということと同じことなんですけど、雑誌の編集のお仕事をされている方というのは、全体の中の設計としてのイラストというよりも、気分的に「ここにこういうイラストがあるといいよね」ということだけを考えてお願いされたりするんですね。それで、僕は、基本的に仕事の主軸にしていることは、デザインのアートディレクションですから、単発でそういうことに対応していくことに何かやるせなさを感じたりしていたんです。それだったら、イラストキットをつくってしまって、それらを貸し出しして、誌面をつくっている人に自由に使ってもらう、そういうことを考えてみたわけですね。
藤井:それでひと儲けしてやろうということですね(笑)。でも、そういう発想をするデザイナーさんは、珍しいでしょうね。ひとつひとつ丹精を込めてやると いうことも大切なのでしょうが、工業化された効率化された、そういうアイディアも僕は両方あっていいと思っています。でも、なかなか受け入れられなかったんじゃないですか?
寄藤:まさに藤井さんがおっしゃる通りでした。このキットをつくった後で、イラスト依頼の連絡がきたんですけど、ひとり目の編集者の方は理解できないという反応、ふたり目の編集者は、結局、最後まで僕自身が面倒をみてやらなければ駄目だという感じになってしまったんです。だから、考えていたよりもずっと手がかかっていて、これじゃあ駄目だと、お蔵入りにしていたんです。これを制作したのは2000年頃のことです。
藤井:ああ、早すぎましたね。今なら成立するかもしれないですね。
寄藤:ありがとうございます。でも、今なら、そうかもしれない。ここキット『KIT 25』の名前の由来は、水平線に対し、斜めに走る直線の角度が25度になる二等角投影図法(ダイメトリック)で描かれていることからきています。現在では、1000個近いアイテム、それから数えきれないパーツで構成されています。でも、イラストというのは、アイドルと同じように賞味期限があって、結局あきら れてしまったら終わりなんですよね。そういう意味では、イラスト単体では、3年とか3年半くらいが賞味期限なんです。パーツとしてのイラストだったら、こちらで最初からつくったパーツをわたすから、自由に、使う側がそれらを組み合わせてほしい、そういう発想なわけです。でも、デザインとイラストがいっ しょになると、それはまた話が違ってきてしまうんですね。
アイディアがうまれるとき?
藤井:そういう意味では、寄藤さんは絵も描いて、デザインもする。デザインできるやつは絵も描けて、絵をかけるやつはデザインもひけるだろう、そういうことですね。それにしても寄藤さんは、面白い発想をされますよね。今年は、『元素生活』という書籍も出版されましたね。とてもユニークな本で笑わせていただき ました。寄藤さんは、アイディアのもとというのは、どこから得ているものなのでしょうか?
寄藤:僕は、本当にすごいアイディアって数学者が数式を思い浮かぶような形でできあがるものだと思っているんですよね。理詰めでやっていくうちに、アイディアが降りてくる感じです。だから、僕の場合は、基本的に何もしていないところからアイディアが出てくるというのとは違うと思うんです。
藤井:ああ、それはよくわかります。僕も、ある人の本を読んで、「わかる」と「納得する」ということは違うということを知ったんです。そして、すべてを構 造化したり、分解したりして、クリティカルな問題さえ解けてしまえば、すべてが解けてしまうということもある。そういうことを知った。だから、クリティカルな問題にさえ上手にアプローチできたなら、問題は明確になって、はまるアイディアが出てくるんじゃないかなと思いますね。
■寄藤文平(アートディレクター) ■藤井大輔(『R25』編集長) |