2009年5月16日に行われたbtfトークショーの第一部に登場したのは、『デザインの 現場』の元編集長で、現在は、美大、デザイン学校で教育の現場に立つ、デザイン・ジャーナリストの藤崎圭一郎さん、そして、ホスト役を務めるのは、デザインディレクターとして、「リボンプロジェクト」や「デロール・コミッションズ」などの指揮を執りつつも、京都工芸繊維大学大学院准教授を務め、『AXIS』への寄稿、自身の『dezain.net』の運営と精力的に活躍する岡田栄造さんです。ふたりとも、デザイン誌への執筆ということに携わってきたということもあり、その世界への想いが強くあるようです。デザインとジャーナリズムの関係とは、一体どのようなものなのでしょう?
デザイン・ジャーナリズムとは?
岡田:
沢山お集りいただきどうもありがとうございます。今日はデザインジャーナリズムについて話ができたらと思います。というよりも、デザインジャーナリズムというものがあるのかないのか、それすらわからないから。だから今日は、デザインのジャーナリズムとか、批評とかがあるなら、どんなことがあるのか? そういうことを話せたらと思います。
藤崎:
普段、僕はインタビュワーとして聞き役が多いから、自分からしゃべるというのはあまり慣れていないので、まずひとつ岡田さんに質問させていただきたいです。岡田さんはデザインネットを10年位やっていると思いますが、非常によくさまざまな情報を集められていますね? あれはどういうことではじめたものだったのですか?
岡田:
きっかけは別段、高尚な理由があってはじめたものではありませんでした。当時は博士課程にいて、博士論文に浸り切りにならないといけない時期がありました。そこで、僕は最先端につながっていれなくなってしまうとマズいなという危機感のようなものがあって、
ただひたすらにリンクを貼っていくという作業をやったんです。あるデザインのビジュアルだとか、ムービーだとか、レポートだとか、日に、5、6個リンクを貼っていくんですね。
藤崎:
当時は、ブログっていう言葉もなかった時代じゃないですか?
岡田:
そうですね。みんなひとりよがりにホームページをつくっていたときで、トイレの落書きみたいに思われたいた時代です。でも、みんな更新しなくなっていく。だから、とにかく毎日更新するようなことをやろうと思ったわけです。更新されることがネットの面白さなわけですから、それが誰かに見られているということに繋がっていくと、段々と、更新をしなくなってしまったら負けという感覚があった。でも、藤崎さんもご自身のブログをつづけられていますよね?
ネット媒体の面白さ
藤崎:
僕がブログ(『ココカラハジマル』)をはじめた理由も基本的には、読者の反応を知りたい、つながりたいという理由です。例えば『AXIS』というデザイン誌では「未来美術報告」という連載を20数回やっているけど、読者の反応というのは聞いたことがありません。『デザインの現場』をやっていたときも一号について50枚くらいの読者カードというのは返ってきて、そこに記事の感想などが書いてあるのですが、それも決して多い量だとは言えないと思います。それに対してブログというのは、それぞれの記事にコメント欄というのを設けることができますから、それでその記事に対してのダイレクトな反応というのがかえってくる。
それがネット上でブログで意見を表明する面白さだと思います。
岡田:
ウェブ媒体は、雑誌などの紙メディアと比べると、レスポンスが得られやすいメディアということで、非常に書き甲斐みたいなものがありますよね。
藤崎:
それから、編集者の質が低下しているというのもありますよね。ひどい雑誌社になると編集者はただのプリンター。本来、編集者は第一の読者であるべきで、一番の読み手とならなければならないのに、渡した原稿をそのまま入稿して、誤植もそのまま、みたいなことは1994、95年頃のパソコン雑誌が増えた頃から、感じはじめましたね。
岡田:
文字はレイアウト用にあるだけで、ほとんどの人は写真を見てキャプションを見てお終い。自分自身もデザイン誌は買わないし、読まないんですよ。
藤崎:
僕もそうですね。でも、紙には紙メディアの役割というのは残っていると思うんです。ウェブ上ではできない込み入った企画をやるということができる。書き手の手間としたら、ブログが3だとしたら、紙のためには10程度は費やしています。だから、第一の読者である編集者がしっかりしてほしいというのは感じますね。むしろ、第一の読者さえしっかりしていれば、すべてうまくいくと思うんですよね。僕の場合、デザインジャーナリストというのを名乗ってはいますけど、心は編集者という想いがあるから、その辺りにはこだわりがあるんです。
デザイナーは無視されるのが嫌?
岡田:
では、現在の肩書きから、今のデザイン・ジャーナリズムについては、どうお考えですか?
藤崎:
デザインというのは実は、ジャーナリズムにのりにくいものだとは思います。批評も非常にしづらい。というのは、売れてしまえば、どんなデザインだろうが使命達成ということがある。そして、企業というのは凄く広く大きな流れの中で動いているといるから、外部の人からはひとつの製品、デザインだけをあげつらえても、何も語り得ない。最近、ようやく発泡酒が出てきた後のビール戦争の話や何かは書けるような気がしています。ただ展覧会や企画展などは、動員数だけで測られてしまうとよくないので、しっかりと客観的に書いてあげないと次に繋がっていかないと思いますね。
岡田:
デザイナーさんの話を聞くと無視されるのが一番嫌みたいですね。その点、藤崎さんは悪いものは悪いとちゃんと書きますね。
藤崎:
21_21デザインサイトで開催された「チョコレート展」についても、結構、厳しいことを書いたと思います。でも、それは相手を認めていればこそ、する作業なんですよ。認めていない人については、僕も批判をしませんからね。でも、展覧会のレポートなんかは圧倒的にブログがいいですね。速報性が強いし、読み手も、会期中にそのレポートを読めるわけですからね。
デザイン誌が読まれない理由はデザインのせい?
岡田:
デザイン誌が読まれないというのは、いろいろ理由がありそうですね。
藤崎:
まず、雑誌としての体裁が読者のことを考えていないというのはあると思います。むやみやたらと大きいサイズだったり、付録がついていて分厚かったり、重厚長大な傾向というのは、広告のためでもなければ、読者のためでもない。ただ、そういう雑誌だからという理由だけで大きい。読んでもらおう!という、つくり手に意志が感じられないんです。電車の中を見ていると、本を読んでいる人の数というのは、決して少なくはないんです。みんな、結構、文庫本を読んでいますよね。そういう意味からは、前にナガオカケンメイさんがやっていた『D』という雑誌は、ちゃんと読んでもらうことを考えていたように感じますね。すっぽり鞄に入るサイズだったし、文字サイズも手頃でしたから。
岡田:
まさに、デザイン誌がぶつかっているのはデザインの問題なわけですね。最近、ヨーロッパの方では、表紙や文字のデザインを変えただけで、その購読者数が5倍にもなったという雑誌がありました。その目で見ると、藤崎さんの本『デザインするなードラフト代表・宮田識(DNPアートコミュニケーションズ)』も、文字サイズも大きくて読みやすいですよね。
藤崎:
あれは、自分の親にほめられましたね、字が大きかったから(笑)。これだけお年寄りも増えたのに、眼鏡をはずして読まなければいけないものが結構多い。それに若い人だって、字が小さくて喜ぶわけではない。で、この本は実は、僕の知らぬ間にこういう風な体裁になっていたのですが、出来てから、こういうサイズもありだなと思いましたね。
今後のデザインは?
岡田:
では、デザインの世界で今後、どんなうねりが出てきたらいいと思いますか?
藤崎:
今年、ミラノ・サローネに行ってきたんですけど、日本の繊細さみたいなものがようやく海外の人たちにも理解してもらえるようになってきたなあということがひとつありました。それと、若いデザイナーたちのつくるものがオーセンティックなモダンデザインみたいなものばかりになってしまってきているということ、そして、ガエタノ・ペシェとか巨匠と呼ばれる元気なじいさまたちが、アバンギャルドなことをして勢いがあるということです。
岡田:
それに対しては、若いデザイナーたちは、もっと勢いあるものがつくれるとお考えですか?
藤崎:
巨匠のアバンギャルドというのを、若い人が真似てやっても仕方ないので、そうではなくて、人が世界をどう感じるのかを変えることに対してのチャレンジのようなものはもっとあってもいいと思います。世界のものの見方を変えるというのではなくて、世界の感じ方を変える。それがデザインが世間に対して役立てるひとつのテーマだとは思っていますね。
岡田:
デザインの何が問題かというと、便利なものをつくって、人間らしさからはかけ離れてきてしまっているということだと思います。何も考えなくても感じなくてもいいという過保護さがどこの世界にもあって、それはデザインで打ち破っていかないといけないような気がしますね。本当の多様性みたいなものを考えるきっかけのようなものは、考えていかないといけないと思います。
藤崎:
そうですよね。燃費の悪い車に乗ったって別にいいわけですよ。他のところでエコすればいいわけだから。エコとか、サスティナビリティのようなところにばかり集約していってしまうというのは、ちょっと考えてしまいますね。ガソリン自動車を楽しむ提案みたいなことも、提案できたらいい、僕はそう思っていますね。
■藤崎圭一郎(デザインジャーナリスト、エディター) |